人でなしの恋



すばらしい戦果を挙げ続けていると、有名なこの隊に配属され、
決意も新たにした入隊式で初めてあの人をこの目で見た時、
こんなヤツの下で働いて、本当に自分の力を発揮させてもらえるんだろうかと、不安に思った。

その後一人一人部屋に呼び出され、事前に送られた資料を基に、
今後の指針などについて話をする機会があった。

しかし、仮面をまとい、口元でしか表情を判断させないこの男は、
ゆるくウェーブを描いた美しい金髪をなびかせて、
あろうことか、オレを怒らせることを言うために突然口を開いてみせた。

「イザーク・ジュールか… お前…美しい顔をしているな。」

沈黙を保ち、驚きと呆れた表情を見せながら、敢えて顔を背けると、今度は顎をつかまれる。

「本当の美とは どのような表情も同様に美しいものだ、もう少し鑑賞させてくれないか。」

逐一、アタマにくる言い方をされ、はらわたが煮え返る思いを押さえつけるのに苦労する。

気を逸らそうと、唯一相手を判断できる口元に目をやると、ヤツは確かに笑っていた。

それが、とてつもなく 気に障った。

「お褒めに預かり光栄ですが、
 オレはこの顔をアンタに鑑賞させるために軍人になったわけじゃない。」

未だ顎をつかむ手を振り払いながら、ついに一言、ヤツに投げつけてやった。

もともと オレは気が長い方じゃない。
上官とはいえ、オレの気分を害するヤツを許しておく気はない。

「少々気が強すぎる感は否めないが、
 相手が何であれ、よっぽどのことが無い限り
 私は美しいものに対して嫌悪を抱くことはない。」

特に、こんなふざけた男。

「私は、実にお前が気に入ったよ、イザーク。」

ゆっくりと、まるで撫でるように呼ばれると、なんだかよくわからない感情に背筋が粟立った。

実際に戦場に出ると、この男は目を疑うほど実に有能だった。
噂にたがわぬ判断力、統率力、兵士という駒の動かし方に至るまで
この男には、隙というものが感じられなかった。

オレたちが とにかくこの男のいう通りに動いていれば、
隊は自然に戦果を上げることができた。

予想をはるかに上回る力を見せ付けられ、当初持っていた印象をほぼ覆されてしまった。

「イザーク。」
「はい。」

そんな時、あの男がオレに声を寄越す。

「これだけ見てもまだ、私のことが信用ならないかね」

なんの前触れも無い

「な、何を…」

唐突な質問に、驚かされる。

「はじめに話をした時、明らかに私を疑っていただろう?」
「そんなことは」

いきなり何を言い出すんだ。

「美しいといったら手を振り払っただろう?」
「あんな扱いをされれば、誰だって怒ります。」

なぜだか、左胸に感じたことの無い違和感を覚えた。

「私は本当に、お前を美しいと感じたのだよ。イザーク。」

また、背筋が粟立つ。

「そして、お前の実力にも、その姿にも、魅せられている。」

歯が浮くようなセリフだ。
嘲笑うように、かわすこともできるはずなのに、それもできない。

「イザーク…。」

ヤツの手が、手袋越しに髪に触れた。

「…ッ」

こちらからは見ることのできない瞳が、仮面越しに見据えた。

「ただの部下としてではなく…」

身動きが、取れない。

「私のものにならないか…イザーク。」

今思えば、うまくあの男の術中に嵌ってしまったんではないかとすら思う。


それからというもの…

「イザーク、この後、私の部屋に来ないかね?」
「行きません!!」

このラウ・ル・クルーゼという男の、公私共に言いなりになっているようで気に喰わない。

しかも、本心で満更嫌がっていない自分に余計腹が立った。

試行錯誤を繰り返し、部屋に帰れば、盛大なため息をついて、

苛立ちに任せてデスクの上のものを払い落とす。

「どうしたって言うんだ!オレは!!」

頭を抱えてしまうほどの、人でなしの恋




(END)




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