欠けた左手。



ふと 見るとそこには いつだって 欠けた左手。

イージスを奪取し、帰艦してからもずっと 左胸が重かった。

君の事ばかりが、 頭の中を巡っているんだと確信しているはずなのに

認めたくないと思う気持ちと、過去の記憶と、先刻の映像とが体中を錯綜しあっている。

「嘘だろう…キラ… 君だなんて…」

あの時のことなんて 今の今まで忘れていたんだ 本当に。
なのに 君の姿を見た途端、すべてが戻ってしまったんだ。
あの頃に…

あの頃 時間を忘れて話したことも 別れる前に交わした言葉も

君とつないだ 左手のぬくもりさえも思い出したんだ。  すべてを。

僕はあの頃も 心のどこかで願っていたんだ。

君とともに 戦うことを。

君の手をとり 背中を預け 戦うことを。

夢見るように 願っていたんだ。


しかし 現実は 胸を刺すすように 冷たく、痛い。

「嘘だろう…」

信じたくないんだ。

君と 戦わなければならないなんて。

「…キラ…」

つないでいた手は いまでは 操縦桿を握るのみで

震えるように 重い胸は  君を ただ 想う。

あれから ずっと 一人だったんだ。

ふと 見るとそこには いつだって 君の欠けた左手。

「………ッ」

涙を堪える 痛む喉には 君の名前が 潜む。

一人きりの コックピットで 握り締めるは

想い錯雑せし 欠けた左手。




(END)




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