鬼ごっこ




オレとあんたの関係は、まるで
決して、捕まることの無い鬼ごっこだ。

鬼は、孤独になることを恐れるがあまりに、
誰かに縋ろうと、手を伸ばすのだ。

ストライクにつけられた額の傷は、
恨みや悔しさや怒りといった感情に押され、
焼けるように痛み、
じっとしている方がつらいくらいだったけれど、

あの時、それよりもなによりも 俺を突き動かしたものは
『恐怖』だった。

それは、あの男が異常なまでに実力に執着していると
知っているからくる恐怖であって、

もちろん、忌むべきストライクのパイロットによって
もたらされたものではなかった。

今のオレには、
あの男が独特の軽口で愛した容姿も、作戦の遂行力も、
存在しない。

こんな何一つ持たないオレに、あの男は興味すら抱かないだろう。
精一杯控えめに、自虐的に笑った。

思っていたよりずっと脆弱な自分に、涙が溢れてしまいそうになる。

気付かなかった。
そんなことが、命を失うことより恐ろしいだなんて。
発狂すらしそうな感情は、半ば自然に体を動かした。

「おまえはまだ無理だイザーク!!」
「うるさい!どけ!!」

あの男の声を、姿を、思い出すだけで、オレを塵芥のように捨て去る姿を想像してしまう。

「早く開けろ!!」

アンタは気付いているだろうか…

「イザーク・ジュール、デュエル出る!!」

オレが、アンタの背中ばかり追いかけていること。

「出て来いッ! ストライク!!」

こいつを撃墜したら、アンタはまた、オレを必要としてくれるだろうか。

様々な想いに震える手で、操縦桿を握る。

オレは、この命の消える瞬間まで、アンタの一番近くで
アンタの背中だけを追いかけて生きたいんだよ。

「オレを…捨てないで……クルーゼ…隊長…ッ」

そして  また、 虚空に手を伸ばす。





(END)




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