011


 やっと漂っていた足に地面をつかませると、すぐにその足をひどい震動がさらった。上の階層、たぶんにその第一階層で大きな爆発でも起きたのだろう。

「現在各部隊各個に応戦を開始した模様ですが、状況は混乱。詳細は掴めません。」

 焦りがそのまま塊になったような声に、埒が明かないと感じたディータは、了解、というが早いか一度通信を切り、今度はすぐそばに寝そべる戦艦ウィトゲンシュタインのブリッジに切り替えた。

「あぁ、ディータか。どうなってんだ上は!管制も第一階層で敵襲らしいとしか言わないし。」

 受話器の横の画面には、慌てた様子でインターカムを頭につけながら話す通信担当ブリッジクルー、フリーデルが映し出されている。

「6番ハンガーに敵襲!新型3機が奪取されたらしい。外の様子によっちゃあオレも出すぞ。」
「お、おい、ディータ!」

 声が消えないうちに受話器を投げつけるようにして駆け出した。その間も、鈍い震動が地面そのものを揺するように絶えず身体に響いてくる。

 先程このドックに来る際にバチロウと乗ってきたエレベータへと続くエアロックに駆け寄ると、ちょうど上の階層から避難して来たらしい隊員たちの波にぶつかった。

 そんな押し返されそうな人の流れに、名前を呼ばれた気がしたが、立ち止まると強いその力に戻されそうになるため、身体は前を目指したまま、目と耳だけで声の主を探した。

「ディータ、上へは行っちゃだめよ!」

 気付けば右腕に、縋るような手を感じて視線を下げれば、ここへ来る前に倉庫街で言葉を交わした女性整備士だった。

「シノウ!お前、5番ハンガーにいたんだろ、どうなってるんだ上は!」
「6番に敵襲があって、見学者の人もいたのに、新型は3機とも奪われたって、私はその時5番にはいなかったから……。」

 また、大きく空気が揺れた。

「さっきの爆発、あんなに揺れたんだもの、きっとモビルスーツを爆破したんだ。ハンガー街の被害だって尋常じゃないはずだよ。」

 女性整備士の言葉は、自分の言ったことに対する恐怖からか、震えていた。そしてその言葉の後に、行かないでとディータに言った。しかしディータの目線は、彼女に向かうことは無く、何か考えているように泳いだ。

「おい!動かせるモビルスーツは全部上げろ!外は敵と応戦してんだぞ!」

 女性整備士と一緒に降りてきた誰かの怒鳴る声が、積み込みを急ぐウィトゲンシュタインのドックに響いた。

「こっちは明日から作戦行動に入るんだぞ。」
「ここが潰れたら、そんなこと言っていられるかよ!」

 バチロウが苛ついて声を荒げている。ディータの判断を急かすようにまた、揺れが走る。
 ディータは、女性整備士の縋る手を離して振り返り、ウィトゲンシュタインを目指して床を蹴った。背中に、女性整備士の声がまだ縋ったが、別の何かに引っ張られるようにそれを無視していた。

「ディータ、どこいくんだ!」

 さっき袖を通したはずの赤い軍服を、また片手に抱えて戻ってきたディータを視界にとらえたバチロウがその様子に疑問げな声を投げてくる。

「ノーマルスーツ着てくる。ジンを上に出す用意をしておいてくれ。」

 ディータはそう言い残すと背中でバチロウが何かしら叫ぶ声を聞きながら、積み込み作業を続けているため、ハンガーへ通じるハッチが開かれたままになっているウィトゲンシュタインの腹に飛び込んだ。







012

 こうしてアーモリーワンに配属になる前、ディータは現在のウィトゲンシュタインのクルーとともに、ウィトゲンシュタインとは違うナスカ級艦に乗り、ヤキン・ドゥーエ宙域周辺にいたこともあった。

 今は、以前の艦からマイナーチェンジが施されて、その微妙な変化にディータもやっと慣れてきたその通路をロッカールームを目指して進んでいく。そのうちにリフトグリップを使うのも億劫になって、思い切り壁を蹴って宙を泳ぐようにして進む。

「もう、どうなってんのよ。荷物移しに来ただけだってのに。」

 泳ぐ通路の先、辻の向こうから低くぶつぶつと女性のような言葉遣いで文句を言う男性の声が聞こえている。それを耳に受けたディータは、しめた顔をして声を上げた。

「サッシャ姐さん、気をつけてー!」
「はぁ?」

 リフトグリップを使っていたサッシャという男は、大きな体躯のわりにすばやい動きで勢い良く飛んできたディータの身体をすんでの所で避けていく。

「ディータ、危ないじゃないの!」
「ちょうどよかった。上で敵襲らしいんだ。他の奴らはいつ来るかわからないし、これからオレとジンで出よう。」

 未だ勢い衰えず、突き当たりのロッカールームまで飛んでいく身体をそのままにディータはサッシャを手招きした。

「さっきブリッジでシュテファンにも言われたけど、嫌よ。あたし今日は非番なんだから。」
「上はてこずってるみたいだし、チャンスかもしれないのに、ここで出ない手はないよ。」
「なぁに、そんなにひどいの?上。」
「らしいよ。」

 先にロッカールームのドアをくぐったディータに少々遅れて、サッシャのがっしりとした男らしい体がドアを幾分か窮屈そうにくぐってくる。

「そういうことなら仕方ない。シュミレーションばかりで実戦なんて久々だし、出ましょうか。」

 そういうとサッシャは隣で着替えるディータに追いつくように、手早く緑の軍服をロッカーに押し込んで、ノーマルスーツに身体を収めていく。急に締め付けられ、呼吸にも負荷がかかるようになる。それに対応するように、ディータは深く何度か息をついた。

「状況は?」
「6番ハンガーに敵襲。新型3機は奪取、周辺ハンガーは爆撃を受け炎上中。各個部隊個々に応戦を開始した模様。」

 ヘルメットの顎の部分をつかんで、ふたりはロッカールームを後にしていく。サッシャへ状況をプレゼンしなければいけないこともあり、ディータも今度はおとなしくリフトグリップを掴んで進んでいく。

「3機って、全部じゃないの。」
「まだミネルバのインパルスがある。機密扱いにしておきたいらしいけど、周りのハンガーがやられたってんなら、出さざるをえないだろうな。」

 明日の式典を前に、プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルがこのアーモリーワンに赴いているというのに、一番失態を犯してはならない日にこれ以上ない失態が起きてしまった。アーモリーワンの司令部はなんとしても3機の奪取を止めたいに違いない。

「――……あのシンって奴、この騒ぎで死んでなきゃいいけど。」

 ミネルバのインパルス。そう口にした時、ディータの脳裏には一人の少年の姿が浮かんでいた。
 まだ実戦経験などありはしないアカデミーを卒業したばかりの少年に、この状況を打破できるとはまったく思ってはおらず、ただ青臭い感情論で飛び出して、優秀な新型機体と期待されているインパルスまでもが奪われる危険性を感じていた。

「何か言った?」
「いや、なんでもない。」

 リフトグリップに掴まり、ハンガーへ繋がるエアロックが視界に入ったところで、首筋のアタッチメントにヘルメットを取り付け、エアロックを抜け、開かれたハッチからドックへと身体を流した。

 そこは、先程にも増して激しい怒号が飛び交っていた。

 ウィトゲンシュタインの艦体を軽く蹴って方向を変えたサッシャは、自らの機体に取り付く整備士にむけて声を張り上げた。

「103番、出すわよ!すぐ仕度なさい!」

 103のナンバリングが施された機体にむかうサッシャを視界の端に確認し、ディータも自らの101番機へと向かう。








013


「ロンバルドゥス、ジークムントにも応援頼め!」

 先ほどと変わらず、ドック中に届くほどのタケシタの大きな怒号が響いている。

「ディータ、101はダメだ!106使え!」

 101番機の足元に降り立つと、すぐに追い立てるバチロウの声が聞こえ、見上げてみると、未だに片腕の無い101ジンがそこにあった。

「チィッ!ディータ・ウェバー、106、出すぞ!」

 床を蹴って進みながら、バイザーを開きっぱなしにしたヘルメットをかぶる。伸ばした手で、106ジンのコックピットへとディータを招く整備士の手を取った。

 コックピットにおさまり、慣れた手つきで頭上のスイッチからテンポ良く切り替え、ウェイティングモードからアクティブモードにシフトしていく。システムのリンクを示すウィンドウに異常が無いことを告げる表示を見ると、各部の稼働状況を示す数値の表示に切り替える。

「後部スラスターの出力、101より少し低いな。」
「今回受領したばかりのジンだ。検定は済んでるが、MMI-M729エンジン積んでるおまえの101ほど手前勝手なカスタマイズはされてねぇ。自分のもんだと思って乗るんじゃねぇぞ。」

 ハッチの上部に手をついて覗き込んでいた顔なじみの整備士に親指を立てて合図をし、リフトへと離れるのを確認しながら、ハッチを閉じ始める。

 外界と隔たれた瞬間、気密の確認が自動で行われていった。そして自動的に作られた空気が隔離された空間に満たされ、全てのウィンドウに周囲の映像が映し出されると、外界の音が消えた。ディータは、機体の外部マイクをオンにし、あたりに散らばる人々に向かって、声を吐き出した。

「1013ドック内で作業する者は総員ノーマルスーツを着用せよ。上は戦闘中である、ノーマルスーツの着用が不可能なものは分散し、エアロックないしシェルターへの退避を勧告する。106、103はこれより上へ上がる。エレベータを使うぞ。該当機周辺のリフト、工具類は速やかに撤収せよ。」

 行儀のいいまっすぐな姿勢でハンガーに固定されていた2機のジンの足の裏が、ゆっくりと地面を捉え、自立する。
 ディータの収まるジン足元では、バチロウが誘導用の手信号板を振って合図を送り、エレベータへと誘導していく。

 ディータは、交互に動きエレベータへと向かっていく両脚部の操作を、オート操作にせずあえてマニュアル操作で行うことにより、自らの愛機と106のクセの違いと身体に感じ取らせていた。

 ドックの端に3基備え付けられた大型機械運搬用のエレベータのうちの2基にジンが1機ずつ収まると、バチロウがモビルスーツの外装に貼り付けることによってコックピットのパイロットとの簡易通信を行う有線通信機を用いて、短い機械的な言葉でエレベータの稼働開始を伝え、それに答える声を確認するとすぐに床を蹴ってドック内へと飛びのいていった。

 宙を流れるバチロウと、鈍い震動とともに動き出す周囲の景色をメインカメラの映像で確認すると、中央管制センターへの通信回線を開く。

「管制、こちらミヤモト隊ディータ・ウェバー。1013ドック、ウィトゲンシュタインより、ジン2機を応援に出す。座標確認後、指示求む。」
「ウィトゲンシュタイン、ジン106、103座標確認。」

 ほんの小さな間を置いて、第一階層へと進むエレベータの中、不鮮明な声が返ってきて、ディータはその声に注意を向ける。

「アビス、ガイア、カオスは奪取され、現在23番ハンガー付近で、ギュンター隊のザク小隊が応戦中。3機の拿捕が最優先事項であるが、不可能と判断された場合、撃墜せよ。」
「了解。」

 小さく口の中で、近いな、と呟いたディータは、ウィンドウにエレベータが第一階層に到達した際の周辺地図を呼び出し、自機とサッシャの103を僚機にカテゴライズしたマーカーに追わせるようセッティングし、第一階層の僚機及び敵機になった3機の新型機のサーチを開始させた。

 ディータは、普段の自分の手より一回り大きいノーマルスーツの掌を見つめ、ぐっと握った。ロールアウトしたばかりの期待の新型機を撃墜しなければならない可能性のある任務に、苦々しく噛まれるその奥歯とは対照的に、その拳は、久しく自らを包むことのなかった実戦の緊張感と、身近に迫る手柄を得るチャンスの予感に震えていた。

 エレベータの床面高度が、間もなく設定された第一階層の数値に達する事を知らせる警告音が小さく聞こえ、ディータを戦場へと送り出そうとしていた。








014

 2機を載せたエレベータは物々しい音を立てて第一階層のビルの陰にせり出し、2機のジンの足元と地面とが平らになったところで停止した。

「どうする、ディータ。」

 サッシャが、ディータの乗る106の肩に自らの103の手の触れさせ、通信回線ではなく接触回線を利用して声を投げてくる。

「コロニーの中では、そう簡単にはライフルは使えない。サーベルだけに頼ってなんとかなる相手だとは思ってないけど。」

 自分に言い聞かせるように呟きながら、次の行動を考えていく。ディータは、掌に汗が滲んでいる気がしていた。
 そして、手早くジンの手にサーベルを握らせる動作をオートで行わせながら、マーカーにサーチさせていた3機を捉えたと警告音で知らせる計器に目をやり、3機を敵機にカテゴライズしなおし、自動で動向を追跡させた。

「姐さん、出るぞ。」
「了解!」

 3機のうちの1機、アビスの接近を知らせる警告音が間隔を短くしながら鳴り響くのを聞き、ビルの陰で双方別方向に展開したジンの2人は、サーベルを下に構えさせ、同時にバーニアペダルを踏み込み、踊り出た。

 突然、アビスに対して正面から斬り上げた103のサーベルを、アビスはすんでのところでかわし、一歩足を戻した。後方よりサーベルを振るわせたディータは、アビスのその動きを目視で捕まえ、見逃さなかった。106のサーベルはアビスの背部を捉え、金属同士のこすれあう不快な震動を中のディータにまで伝えながら、致命傷とまでうまくはいかないが傷を与える。

 アビスは、弾かれたようにバーニアを噴かして飛び上がり、無差別に近い形でディータたちの周辺に向けてビーム兵器を乱射しながら、他の2機の方へと移動していく。

「3機一度に相手にするのはさすがに部が悪いわね。」

 103の背部を106の背部に触れさせて、サッシャは、小さく言葉をもらした。
 その声を耳に受けているディータは、自分のいるビルの向こう側に、ガイアの機影と、立ち上がる1機のザクを見ていた。

 ザクは、それまでハンガーの中に収納されていたものがハンガーの爆発により無残に倒れ、露わになっていたもので、パイロットは不在と思われていたが、突然動き出したところを見ると、パイロットが遅ればせながら今頃機体にたどり着いたのだろうか。

 その目の前の機体が、ウィンドウの映像の中、ガイアに向けて加速しショルダータックルをしていく。
 なぜか、ディータの目はその動きが気になってしまい、引っ張られるように反射的に追いかけていた。

 瞬間的な加速の際に、モビルスーツ後部のスラスターに推力の大きな部分を担わせる、方向変換も後部スラスターの微調整を中心に対応する。そんなクセのある操縦に、ディータは覚えがあった。

 その時、ザクの動きをトレースした目からの映像を受け取ったディータの脳裏に浮かんだのは、自らがアカデミーと呼ばれるZAFTの士官学校に在籍していたころ行われた模擬戦のコックピットだった。

 その眼前には、おなじクセのある動きでこちらを見据え、刃を交える相手部隊の隊長機である訓練用のプロトタイプジン。

 ディータは、上がる呼吸を抑えてその記憶の映像を早送りして、コックピットから降りてくるパイロットの姿を探した。あの模擬戦、あのプロトタイプジンから降りてきた奴は誰だっただろうか?

 ディータの記憶の中、ケーブルを伝ってコックピットから降りてきた男が、ヘルメットを取った。

 思わず息を飲んで、その記憶を確かめる。その顔も、そのクセも、アカデミーにいる間、たった数度だけだが刃を交えたことがある、名の知れた男だし、なによりディータ自身があまり快く感じていなかったタイプの男であるだけに忘れるわけがない。

 しかしその男は、オーブに亡命したと報告を受けている。すでにZAFTはおろかプラントにすらいないはずだ。こんなところで、ザクを駆って応戦しているはずがないのだ。

 アカデミーでは、モビルスーツに関することばかりに集中して、それ以外は夢中になれず、モビルスーツに乗るため、赤服を取るためだけにやってきたディータにとって、モビルスーツの演習に関して記憶違いを起こすことなど、あり得ない。ディータ自身、それを自覚している。

 しかし、ディータの脳裏に浮かぶ男の名前は、一つでしかなかった。

「――……アスラン。」









015

 一時の思い出との邂逅に思考を停滞させていたディータの脳を、高速で接近する物体の存在を告げる警戒音が揺さぶった。

 先の大戦の英雄、アスラン・ザラが乗っているかもしれないザクは気になるが、今は戦闘中で、それどころではないとヘルメットの額に手をやりかぶりを振る。

 そして、警戒音を発する計器に目をやると、ミネルバが収まるドックの方面から、高速で移動する物体が飛来する模様が映しだされている。

 それは、次々に後を追う機影に後押しされるようにつながり、ディータの駆るジンのウィンドウに一つ所属不明機が映し出された。ディータはそれがミネルバのインパルスであると確信する。
 その確信は声を発せさせると同時にディータの眉根を寄せさせる情報だった。

「インパルス!」

 場数を踏んでいない少年兵を援護し、与えられた分不相応なほど高価な玩具を守るのも、暗にディータに課せられた任務に違いなかった。しかし、アスラン・ザラのイメージを脳内に呼び起こされたことで、より手柄を欲する気持ちを強くしたディータにとって、そんな子供を気にしながらの戦いは、明らかな重荷であった。

 これでは前に出て戦うこともできないと作戦の変更を余儀なくされ、苛立ちばかりが募る中、未だ味方機としてカテゴライズされているであろう奪取された3機にこちらの動向を探られないように切っていた通信を開いて、ヘルメットのマイクに向かって荒い声を投げつけた。

「インパルス、応答しろ、こちらはウィトゲンシュタイン所属、106ジンだ。インパルス!」
「――……どうしてこんなこと、また」

 短い沈黙の後に返ってきたのは往信ではなく、何やらがなるように叫ぶ声だった。
 それは確かに、先程肩口にぶつかった少年のもののようだった。

「また戦争がしたいのか、あんたたちは!」

 そんな、ヘルメットの中で音ががさがさと割れるような声を残して、インパルスは地を割るかのように大きな剣を振りかざし、飛び出していった。

「シン・アスカ!」

 ディータは、思わず叫んでいた。

 アスラン・ザラを思わせる存在の出現や、突然の出撃、慣れない気遣いながらの戦闘、日常生活のそれをはるかに上回る処理速度を要求される思考は、飛びゆくシン・アスカの叫んだ言葉の意味が理解できなかったのだ。戦争を嫌い忌み句を吐き出しながらもモビルスーツを駆り、剣を振りかざす少年がそんなことを言うということが。

 戦争が続けば、先の大戦では後方支援ばかりで、ろくろく戦闘宙域にいることもなく、エリートパイロットの証だなどといわれる赤い軍服に身を包みながら、同期の赤服たちの輝かしい戦果を耳にしていながら、何もできず鬱々とした気持ちだけを重ねていた、そんな自分にも、名実ともに讃えられるZAFTの赤服となるチャンスが巡ってくるだろう。

 そう思うと、背筋から指先まで、小さな震えが走るのを止められなかった。それは、疑う余地もない武者震いであった。

 ディータからの通信に耳も向けず、インパルスは奪取された3機のうちの1機、ガイアへと向かい刃を交えているが、馬鹿正直に真正面から当たりすぎている。これでは勝てるものも勝てないだろう。

「とりあえずはインパルスの援護だ、ここでインパルスまで落とされたら元の木阿弥だからな。」
「それもそうね。それにしても、熱いわね。学校で習ったまんまの当たりじゃない。」

 ディータとサッシャは散開し、ジンの背中を各々建物に預け、周りに目もくれず大刀を振り回すインパルスの援護として、出力をぎりぎりまで抑えたビームライフルで射撃を行っていく。
 しかしながら、奪取された3機は、出力などお構い無しに強力なビーム兵器を使い、アーモリーワンのすべてを破壊するのではないかと思われるほどの光の雨を降らせている。

「ここが箱庭だって、わかってるのか。いくら自己修復ガラスったって、限度はある。」
「本当に、地球連合の連中みたいね。プラントの人間があんな戦い方するとは思えない、できるとしたらよっぽどイカレた奴よ。」
「あぁ。」

 プラントに暮らす人間は、自分たちの立つ大地に穴があく恐怖に本能的に怯えているといえる。もちろんそれはディータやサッシャのような軍に従事する人間も同じことで、プラント内の戦闘は特にその火器の制御に気をとられるため、集中力の疲弊が激しく苦手と感じるパイロットは多い。










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