無理して笑わなくて良いよ




「あんたって、ふつうに笑ったり出来ないの?」
「笑う必要がないから笑わないだけだ。」

唐突に、ルナマリアはレイに棘つきの言葉をぽいと投げた。

「私あんたの笑う顔って見たことないわ。」
「必要が無かったんだろう。」
「つまんない。」

レイはといえば、唇をわずかに尖らせて、つんとしてそう言って、ルナマリアの投げた言葉をかわした。

「笑ってよ。」
「嫌だと言ったら?」

会話を楽しむ気のない不器用な相手によって、ぶつ切りになる会話を、
このままに放っておくのは自分が負けたようで、意地に近い形で繋いでいく。

「私のために笑えないって言うなら仕方ない。」
「そうか、そんなに、言うなら笑う位してやろうかと思ったのに。」

いつもより数段諦めが早いな、と不思議に思い、レイは前髪に邪魔される視界にルナマリアを捉える。

「無理して作った出来合い物の笑顔なんていらないわ。」

その視界では、ルナマリアがさも機嫌悪そうに、そう吐き出している。
さっきまで寄越せ寄越せと言っていたものを、差し出してやろうといえば、気まぐれのように嫌がる。
そんなルナマリアの言葉の意味を、レイは理解できずに幾許か困惑していた。

「どうして。」
「ばっかじゃないの。そんなこともわからないから笑えないんだ。」

素直に尋ねてみることにしたらしいレイの声を、今度はルナマリアが得意満面にぶつ切りにしていく。

「お前の言うことはよくわからない。」
「本当に馬鹿ね。」

さらに困惑を色濃くして、顔面に貼り付けるレイを横目に、ルナマリアは笑い出す。
本当にしようもないヤツだと言って、馬鹿にしたように笑い出した。
そして、右手の人差し指をすらりと立てて、このままじゃきっといつまでもわからないだろうから、
ヒントを出してあげると言って、おどけてその指を横に軽く振る。

「私、嫌いなヤツの笑顔なんて、むかっ腹立って一秒と見ていられないわ。
 そんなもの、進んで見たがると思う?」

大げさに百面相してみせるルナマリアは、くるくるとよく動く瞳で、それでも、レイの表情を一つ残らず見つめていた。
レイは、当たり前ことをきかれたつまらなさをため息に混ぜて、吐き出す。

「思わないな。」

そこまでわかったなら、ルナマリアはそういって、レイにわずかばかりにじり寄る。
覗き込む姿勢をとって、暖簾さながらの様相を呈す前髪を片手で掻き分けて、レイの双眸を逃げ場なくみつめた。

「お利巧さんなあんたならわかるでしょう?つまり、どういうことだと思う?」

このときばかりは、ルナマリアにしては珍しく、レイの言葉を待っている。



(END)


title : スピカ

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