あかいゆびさき。 「ねぇ、レイ。雪よ!私はじめて見たの!」 そういって、ルナマリアは白い息を吐いて、スカートを揺らして駆け出した。 うっすらとつもりはじめた雪は、ルナマリアの身体の周りを包むように舞い、 見慣れない地球の景色を、より見慣れないものへと白く滲ませている。 「雪だるまって、どうやって作るのかしら。このくらいの雪でも作れるのかな?」 見慣れないすべてのものが珍しくて仕方がない、そういった様子だった。 好奇心が先行して、突然しゃがみこんでは素手でつもった雪をかき集め、 丸く固めようとしては力の加減がわからず、また飛び散る雪の粉にしてみたり、 掌一杯に雪を乗せ、空に向かって投げ撒いてみたり。 まるで犬かなにかのようだな。 レイは、そんなルナマリアを見ては、そのあまりのはしゃぎっぷりに、呆れたように小さく肩を落とした。 「ねぇ、レイ。アンタ雪見たことあるの?」 いつものように突然、ルナマリアが大きな声を投げてきた。 「いや、ないが。」 「ならもっと、こう、感慨とかないの?」 「ただの自然現象に、そこまで感情的にはなれないな。」 「もったいなーい!」 そう不満げに言っては、また、ひょいと立ち上がり、こちらへ駆けて来る。 その途中、慣れない足元に足を滑らせるのがレイの視界に映った。 「うわっ。」 「ルナマリア!」 レイは反射的に、右手をルナマリアの身体に伸ばした。 倒れかける脇の下に手が届き、転んでしまう前に支える。 「いつもどおりに走るからだ。」 「ふー、びっくりした、ありがと。」 レイの腕を手でつかみ、息を吐き出したルナマリアは、目を小さく見開いて、レイを見上げる。 「そういえば。」 そこで一度息を置き、不審気に見つめるレイの表情を注視して、また、口を動かす。 「こんな風に直接助けてもらうのは、はじめてね。」 「……そう、だな。」 「何か感慨は?」 悪戯に笑うルナマリアに、レイは大げさに肩をすくめ、別に、と答えて見せた。 「つまんない。」 頬を膨らませる仕草に自然と顔がほころぶのを感じ、とっさに視線を外すと少し赤味を増した掌が見えた。 「……手が赤いな。」 「あー、そうね。雪を触ったから。」 「素手で触るからだ、しもやけになるぞ。」 「それも初めてだから、体験してみるのも悪くはないかも。」 ルナマリアは自分の両手をみつめ、ふふふと楽しみなように笑ってみせる。 レイはというと、自然と動く自分の腕に、どこか驚きながら、それを他人事のように見つめていた。 「ん?なによ、レイ。」 レイの両手は、不審がるルナマリアの細い赤い指先をそっと包んで、その指に息をあてて暖めるみたいに、ゆっくりと口付けた。 「どうしたの、急に。」 思っていたよりも大して驚かないルナマリアに、不満を覚えはしたものの、それを伝える気も起こらないので、ぽつりとこういってみることにした。 「……こんなことをするのははじめてだが、悪くはないな。」 でしょう、目の前のルナマリアの口元が、そう言うかたちに満足げに引きあがるのが、今はレイの目に映っている。 (END) うーん、不完全燃焼だな。 (20060124) <BACK> |